電波のどこかに私の夢が

人の夢の話ほどつまらんものはないだろう。いまから私は夢の話をする。

自分が夜に夢を見ていると気がついたのがいつだったかは覚えていないが、割と幼少期から夢の話をしていた気がするので、もともと眠りが浅いのかもしれない。夢を覚えているのは眠りが浅いからという理解でいくけれど。

小学校のころの登下校時が私の本分だった。

AB型双子座の私は幼少時より「二重人格」とか「二枚舌」とかいうワードに大変傷つき、まじで傷つき、本当に傷ついていたのだけれど、それは自分でその自覚があったからに違いなく、私の中の私たちは結構子供のころから私本体を乗っ取り沢山の私がむしろこれが本来の私だけど的な感じに元気に暮らしていた。

クラスに行けば仲のいい子に対しての顔があるし、習い事では先生に対する態度があるし、家族の中ではおちゃめな末っ子ちゃんとしての言動を演出するのに余念がなかった。（おちゃめでないと大人の輪の中にいれてもらえないのだ）

多かれ少なかれ人はそういうものだという意識がそのころは子供だったのでまったくなく、ただただ自分が卑怯な二枚舌の多重人格者だということを悲しみながら暮らしていた。そんな私が唯一、なにも考えずに適当にしていられたのが登下校の班の中だったのである。

小学校という小さい範囲の中にも地元という感覚は存在していて、あのころ子供会というのはひとつの国だった。同郷の人間というのは家族とまでは言わないけれど、外面と内面があるとすればかなり内面よりの、いわば身内なので、まぁ好き勝手やっていのだ。

で、私はほとんど毎日今日見た夢の話をしていた。そしてめちゃくちゃにウケていた。

今思えばそれは夢が面白かったというよりは私の話術によるところが多かったような気がするけれど（子供の話術なんてたかが知れているが）そしてこれは別に自慢ではなく、身内の中では面白いという世の大学生の中に5億人くらいはいるだろう恥ずかし目の自負なので放って置いてほしいのだけれど、ともかく夢の話が一番はねたのである。

幼少期からウケたい欲望が強かったので夢の話ばかりしていたし、同時に滑りたくない欲望の方が強かったので、だいたい見た夢の話に適当なオチや筋を付けて話していた。家に帰ってから嘘のオチを作り出したことに対して落ち込んだりしていた。

で、見た夢をアウトプットする、ということについての話をするけども。

みなさん夢の話を覚えていますか？　いや急に語りかけてきたなって感じだけれど話の転換をこれ以外どうやればいいか分からなかった。この覚えているというのは、次の日に、というわけではなく、今現在、覚えている夢の話があるか、ということだ。

ある人も結構いるのではないだろうかと思う。風邪の時に見る夢とか、何度も見ている夢とか。

私はその気が強く、どの気だかわからんけれども、15年前に見た夢とかを覚えている。なんならあの日昇降口で腐れ縁のくそ豚ちゃんに話したアネモネの夢を覚えている。見た夢の話を小説にして箸にも棒にもひっっからなかったことだってあった。

で、青年期の、そして人生の暗黒期にいた頃の私は、こりゃ便利だとひらめいた。なにせネタ出しをしなくても夢の話を書いてストックしておけばいいわけで、構成とかも昔嘘ついてオチを付けたみたいにちょちょーい！ってやればいいじゃん、いけるじゃん、と思ったのである。で、夢日記というものを書き始めた。

死ぬかと思った。

というかもしかしたらあの時何体か私の中の私は死んだのじゃないだろうか。夢の中に取り込まれたままかなりの数の私が帰ってきていないように思う。

夢日記の危険性についてはなんかいろいろきっと記事とか出てるから見てもらうとして、でもそれだけじゃ不親切なのでちょろっと説明するとすると、夢を書き出すことによって、夢が現実になってしまってやばいのです。

夢を覚えている人はいると思うけれど、だいたいは一過性のものでしょう。今は覚えていたけど、ちょっと経ったら覚えていないみたいな。健全。それが正解なんです夢なんてものは。

書き出すことにより夢の記憶が定着して、すぐ振り返れるようにもなってしまい、まぁたまにならいいのかもしれませんが、毎日、しかも真剣にアウトプットしていると、まじで本当の記憶になってしまう。

いや、本当に本当に！

ふとした時に、たとえばブラウスの二番目のボタン留めてる時とかに「あの時のタモリさん……」みたいなことを本当の記憶として思い出したりするんですよ。タモリさんだったら気づくでしょ？と思うかもしれないけれど、だんだん気づけなくなる、というよりあれ、なにが夢だったんだっけ？ってなって「いまが夢か？」みたいなこわいことになるわけです。

私などは覚えている夢のほぼすべてが悪夢ですので、死！みたいな記憶が日常の倍蓄積されて、毎秒「死！」ってなって叫びそうになって叫ぶのを止めるために脳をフル活動させてぱっぱらぱーになってしまったのでした。

本当はこんなにポップな話ではなく、普通に夢で受けた衝撃を思い出して過呼吸になったりとか、叫ぶの止められなくてバイト先で「わ！」って叫んじゃったりとか。ものすごく実害があったのでした。おわり。

ちなみにあの時のタモリさんが何をしていたのかというと、水に沈む街の上の観覧車の中で私に「本当に出撃するの？」と問いかけていました。私は本当は乗りたくなかったけど、怖いしいやだったけど、ガンダムに乗らなくちゃいけなくて、できればガンキャノンがよかったけどなんか変な最新の機体で、本当にぜんぜん少しも乗りたくなかったんだけど街が沈んでいるし仕方なく「はい」って答えたらタモリさんに首を掻っ切られた。

そんなわけで、みんなも夢には気をつけよう。以上、私の夢日記は今もネットのどこかに浮いているかもしれない、の小話でした。